、宝貝は使わんのではなかったのか?」
「これ、2代目煽鉾華はね、『宝貝スイッチ』ってのがあるの。これをオフにしておけば、普通の人間でも触れる、ただの鉾になるんだ!」
「ほー…そんな機能の付いとる宝貝、初めてみたわい…」
「太乙が特別に作ってくれた宝貝だからね。貰ったときはまだ小さかったから、使わない時は力を吸い取られないようにしてくれたのよ」








第15話
 ―…試合、開始!








――太公望に嵌められ、南宮カツと手合わせをすることになった
訓練場の真ん中はその為に大きく開けられ、訓練していた兵士達は、今や観客と化している。


「はー…意外と大々的な見世物ね…」
「兵士達にとっては勉強になるであろう?」
「…それが目的? そんなモンじゃないんでしょ??」
「さあのーう!!」


溜息をつきつつ太公望を見やるだが、その眼はいきいきと輝いている。
やると決めたら手は抜かず、精一杯楽しんでやる、というのも、彼女の持論のひとつ。


は鉾型にした煽鉾華を手に、南宮カツに近づく。


「じゃあ南宮カツさん、試しに触ってみてもらえます? 宝貝なら人間は触れないはずですけど…」


その言葉に少し顔を引きつらせながらも、煽鉾華に触れられることを確める南宮カツ。

触れられる、ということは、それはもう宝貝としての機能は果たさないということ。


「確かに、触れるな」
「でしょ? これはもう、只の鉾なんです。……でも南宮カツさん、竹刀じゃー…一撃で割れますよ??」
「いや、これで十分だ!!」


南宮カツの武器を見て、慢心ではなく、ただ事実を述べるだが、南宮カツは聞き入れなかった。


「…ま、いっか。割れたら考えれば…。じゃあ望ちゃん、始めるから離れといて?? あ、あとこれ預かっといて!」
「うむ」


は双輪雪を外して鞄にしまうと、鞄ごと太公望に預ける。
そして、太公望が離れたのを確認すると、南宮カツに向き直る。


「じゃあ……お願いしますね」
「あ、ああ…」


穏やかな微笑みとは裏腹に隙なく構えるに、南宮カツも思わず気を引き締めなおした。






「あの姉ちゃん、すっげー美人だなぁ…」
「ああ…でも、南将軍を相手に手合わせって、大丈夫なのか??」
「俺たちより遥かに腕は立つらしいぞ…?」


「ほう…上手くいっておるやものう!」


一方、観戦に回った兵士達の中にいる太公望。
この騒ぎを聞きつけ、武吉と四不象もどこからともなく太公望のもとへやってきた。


「御主人!! どういうことっスか!?」
さんが手合わせする人、大きいですねー!!」
「まぁ、黙って見ておれ。わしもあやつの腕前をしっかり見るのは久しぶりだのう…」


隙無く構えるを見つめつつ、太公望は口角を上げた。





「では……試合、開始!!」


一人の兵士が、手合わせの始まりを宣言した。
次の瞬間、が軽く地を蹴る。


「!?」


――ガシッ、と、鉾と竹刀の合わさる音が鈍く響いた。
観客の目に入ったのは、鉾と竹刀を突き合わせる二人。


「姉ちゃん、なかなかやるな…。たいした瞬発力だ」
「ありがとうv …でも、やっぱり割れましたね、竹刀」
「!?」


その瞬発力を生かして、試合開始の宣言とともに相手の後ろを取っただが、相手もやはり武人。
反応よく振り向き様に竹刀を繰り出してきたが、それでものほうが一枚上手だった。

――が竹刀と突き合わせていた鉾をスッと引いたとき、南宮カツの手の中で、竹刀は、縦に真っ二つに割れた。


周りの兵士から歓声が沸く。


「なっ…ス、スゲェ………悪いな姉ちゃん、ちっと甘く見てたぜ」
「それはいいから、次はちゃんと鉄の棒使って下さいよ?」


少しむくれて言うに、南宮カツは再びたじろぐ。


「て、鉄棒!? それはいくらなんでも…」
「修行とかで使ってて、もう慣れてるんで大丈夫です。それに万が一怪我しても、もう一つの宝貝でちゃんと治療できるんで。ちゃんと相手して下さいよっ!!」
「い、いや、しかし…」
いーから!! …あ、じゃあ私も、この煽鉾華、鉾型以外に箒型でも使うんで。それなら丁度良くないですか?」
「箒型?」


問いかける南宮カツに、がばっ、と煽鉾華の花びら部分をひらいて見せる
開いた部分を指差しながら、「ここで受け止めたりできますから」と、折れた竹刀を南宮カツから受け取り、実際にやってみせる。


「むうっ…仕方ねぇ。こんなに腕のたつ姉ちゃんに、竹刀じゃ失礼だったからな……」


見ている兵士に鉄の棒を持ってこさせ、に向き直る南宮カツ。


「相当の実力があるのは分かった!! 今度は本気で行くぜぇ!!」
「そうこなくっちゃ!」


――第二ラウンドの始まり。
先程の兵士が、再び開始宣言を行なう。


「さてっ、今回は下手には動けないねー」


口ではそう言いながらも、は一気に南宮カツの懐めがけて飛び込んだ。
会場に、再び、ガシッ、という金属音が響く。


「本当に、受け止めてるな…」
「だから言ったじゃないですか」


降ってきた鉄棒を、煽鉾華を開いて受け止めた
バッ、とはじくと、後ろに回って今度は鉾型で南宮カツを狙う。


「!!」





「ほお、やはり速いのう…」
さん、凄いですっ! あの大きな人も焦ってますよっ!!」
「身軽で小回りが利くから、大きいヒト相手でも負けてないっス!!」


瞬発力を最大限に生かし、南宮カツと互角以上にやりあうに、観客席からも歓声があがる。
受け止めては弾き、弾いた瞬間の隙をついて後ろに回りこんで鉾で足払いをかけようとするに、兵士からは感嘆の声も聞こえる。


「すげぇよ姉ちゃん! 綺麗な顔して!!」
「あの南将軍が押されてるなんてな…」
「舞踊を見てるみたいだぜ…。滑らかで無駄のない動きだ…!!」
「おい、誰か南将軍も応援しろよ………しっかし、本当にスゲェ…俺らも負けてらんねぇな!!」


「ふむ…やはりな。上手くいったわい! かっかっか!!」


兵士達のやりとりに、太公望は満足気に笑う。

『兵士の士気を上げること』
――どうやら、これが本当の目的だったようだ。





「はあっ、姉ちゃん、本当に凄ぇな…。仙人ってことは、もう何千年も生きてんのか!?」
え!? いや、私はまだ見た目通りの年ですよ!?」
「何っ!? ますます負けらんねぇ!!」


激しい応酬にも関わらず、会話を続けながらやりあう二人。
瞬発力が良い上に、体も柔らかく、思いがけないアクロバティックな動きをするに翻弄されている南宮カツは、そろそろ息も切れてきた。

はそんな隙を見逃さず、一気に間合いを詰め、鉾の先で足払いをかける。


「…そこだっ!!」
「!!!」


今までなら避けられていたこの方法も、疲れてきた南宮カツには有効だった。

――次の瞬間、その巨体がバランスを崩し、宙を舞った。




<第15話・終>


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あとがき