――目が覚めたら、外は銀世界でした。
「…わぁ、積もってる〜!!」
思わず上げた歓声は淡く白く色付いた。外の世界と同じ色。
いくら部屋の中だと言っても窓際はやはり温度が低い。は自身の吐いた白い息とパジャマに裸足という格好を見直し改めて寒さを感じた。一先ず、手近なところにあった上着を羽織る。
窓の外に広がるのは確かに普段見慣れた空間に違いないのに、色を無くしたそれはまったく別の物に見えてしまう。は自分がどこか知らない場所に来てしまったかのような錯覚を覚えつつ、白に染まった街を見下ろした。
正面の家の、良く目立つ青い屋根も真っ白。
電信柱の下の真っ赤なポストも真っ白。
濃い灰色をしたアスファルトも、その脇にひっそり生えてる雑草も、見事に真っ白。
道路にはまだ、足跡一つ無い。
「…今日学校無くて良かった!」
はどこか満足気に小さく溜息を漏らすと、自室のもうひとつの窓を一瞥し、部屋を後にした。
…隣家の二階、閉められたカーテンの向こうに人の動きはまだ、無い。
日が昇ってきた。
ぴったりと閉じられたカーテンの隙間から徐々に室内に差し込んでくる光が朝が来たことを知らせる。
普段ならそれと対になるように聞こえてくる鳥の囀りは、今日は聞こえない。
「…なーんか、今日は妙に静かさね……」
に遅れること約三十分。彼女の隣人・黄天化は、けたたましいアラーム音を鳴らす事無く目を覚ました。
普段よりいくらか目覚めが良かった天化はだらだらとベッドに留まる事無く起き上がると、すぐ脇の窓に掛かるカーテンを開ける。
開けた視界の目前の窓に掛かるカーテンは、その部屋の主によって既に開けられていた。
が天化より早起きなのはいつもの事。天化は特に気に留めることもなく、道路側の窓へと移動する。
閉ざされたカーテンを開け放つ。
ほぼ同時に、天化の顔の目の前で、べしゃっ、という音と共に窓ガラスが振動した。
「なっ!?」
ガラスにへばりつく謎の白い塊。
天化は何事かと首を傾げつつ、相当に寒いのを覚悟して窓を開けた。
すぐ下に居たのは、予想通りの人物。
「あ、ナイスタイミーング! おはよー天化!」
「、やっぱりあーたさね! 朝からヒトんちの窓に何投げてんさー!」
「何、って…雪?」
「は?」
すっかりに気を取られていた天化は、言われて初めて周りへと意識を移す。
そこに広がっていたのは、少し溶け始めてはいるが、一面真っ白な雪景色。
「おー…すげぇ積もってるさー!」
「でしょー? 日が出てくる前はもっと綺麗だったんだから!」
「…あーたまさか日の出前から外に居るんさ?」
「まーね!」
「うわ、やっぱりさ……」
へへん、と楽しげに笑う幼馴染を見下ろし、天化は内心複雑な心境。
普段は姉のようにしっかりしている彼女が、今日は寒さで頬を真っ赤にしつつ無邪気に雪と戯れている。
「はー……こういう所は抜けてんさよね…」
「え? 何か言っ……っくしゅん!」
「ほれ見るさ…ったく」
はぁあ、と白い息を吐きつつ、天化は窓を閉める。
は閉ざされた窓にあっと声を上げたが、程なく隣家の玄関が開く音がした。
「天化も出てきたんだね」
「どっかの誰かさんが薄着で雪遊びなんかしてるかんね…ほれ」
天化は駆け寄ってきたを後ろを向かせ、手に持っていた上着を羽織らせる。
は一瞬きょとんとするが、肩に掛かる重みに天化の行動を理解した。
「あ、これ私の! ありがと!」
「元々の忘れモンさよ」
「そーでした…ごめんごめん。…ところで天化、見てアレ!」
「ん?」
が指差す先にあったのは、彼女の背丈ほどある、綺麗に並んだふたつの大きな雪だるま。
微妙に背の高さが違うそれらを見て、自分とみたいだな、と思った天化だが、それはあえて口にせず、へぇ、と感心した声だけ返す。
「よくこんなデカイの二つも作れたさね」
「結構積もったしね! でもなぁ…同じサイズで作ったはずなのに、離れてみるとちょっと大きさ違っちゃったな……なんか私と天化みたい?」
「………」
雪鏡
…顔がほんのり赤いのは、きっと雪と寒さのせい。
★あとがき