むかしむかしのおはなしです。
…それはまだ、がとても小さかったときのはなし。








リトル・スチューデント








「…、じゃあ次の問題に行くよ。まず、この文章を読んでみて?」
「えっとー…『ぼーちゃんはモモを6こもっていました。ふげんとにひとつずつあげました。ぼーちゃんはいま、いくつのモモをもっていますか?』」


ある日、は普賢のおうちで、べんきょうをおそわっていました。
今日はさんすうの日。
普賢がいうには、あとあとのむずかしいべんきょうのためにも、さんすうは大切だそうです。


「うん、そうだね。じゃあ、答えはいくつになる?」
「んとー…モモが6こ、ふげんとがひとつずつだからー……4こ!」


りょうてをつかって数をかぞえたが、みぎてで4をつくって普賢にみせます。
普賢はやさしく笑って、「良くできました」とのあたまをなでました。

そして、ふっとまじめな顔になって、はなしをつづけます。


「…あ、でもね、もしモモを持ってるのがだったら、はちゃんと皆で2個ずつ分けて食べるんだよ?」
「え? なんでー…?」
「モモは6個もあるでしょ? が2個、望ちゃんが2個、僕が2個。ほら、これなら皆同じだけ食べれるでしょ?」
「…あー、そっか!!」


……普賢はさんすうのべんきょうに、『じょうそうきょういく』もとりいれているようです。




「普賢ー、おるかー?」


そんなとき、おうちのとびらがひらきました。
ひょこっと顔をだしたのは、普賢のともだちの太公望。


「あ、ぼーちゃんだ!」
「あれ、本当だ。望ちゃん、今日はどうしたの?」


きがついたふたりは、にっこりと太公望にわらいかけました。
太公望も、えがおでこたえます。


「お、もおったのか。丁度良い!」
「何? どうしたの?」 


普賢はくびをかしげて太公望をみました。
太公望はひとさしゆびをぴっと上げて、普賢にいいました。





「のう普賢、をわしにくれんかのう?」




ぴしっ、と、なにかにヒビが入るおとがしました。
はよくわからないのか、えんぴつを持ったままぽかーんとしています。


普賢はいままでよりもっとかんぺきな、キラキラまぶしいえがおでこたえます。


「…あれ、おかしいな。ごめん望ちゃん、僕、ちょっと意味が分からなかったから、もう一回言って貰ってもいいかな…?」


そう言う普賢からは、にこにこ、という音がきこえてきそうなくらいです。
でも、普賢のりょうての中では、ものすごく固いはずの普賢の宝貝にヒビが入っていました。


太公望はヒビの入った宝貝をみて、やってしまった、というかおになりました。
あわててりょうてをぶんぶん振って、あとずさりします。


「や、ちょっと待て普賢! わしの言い方がまずかった言葉が足りんかったすまぬ反省しておるからその顔をやめい!! ただわしは今日一日を貸してほしかっただけであってだな、おぬしの考えているような意味では…!!」

「一人で何言ってるの望ちゃん。僕はただ、もう一回言ってほしかっただけだったのに」


にこにこにこ。
普賢のうしろには太公望だけにみえる、キラキラ光るなにかがあるようです。


「それに望ちゃん、は物じゃないんだから、くれとか貸すとかっていう表現は良くないね。小さい子は周りに影響されて色々な言葉を覚えていくんだから、の前でそういう不適切な単語は使わないでほしいな」


にこにこにこにこ。
普賢は笑顔をくずさずに、いったん息つぎをしてまた口をひらきます。


「しかもだよ、を連れていってどうするつもりだったの望ちゃん。今日は元始天尊さまに呼び出されてるはずだよね? まさか僕が都合が悪くなってを押しつけたから今日はの面倒を見なきゃいけないからとか何とかいってサボるつもりだったわけじゃないよね」


にこにこきらきら。

普賢は一歩ずつ、太公望にちかづきます。
太公望はもうまっさおで、なにも言えずにかべぎわにくっついています。


「まぁもし仮にそうじゃなかったにしても、まだ望ちゃんには任せられないよ」


にーっこり。

普賢は言うだけいってすっきりしたのか、太公望に背中をむけて、すたすたとのところにもどっていきました。
はむずかしくて分からなかったのか、まだきょとんとしています。




「…そーいう黒い部分をの前で見せるのも、教育上良いとは言えんだろーが…」


太公望は、へろへろとゆかにくずれおちながら、ぜったいに普賢にきこえないくらいの声で、ひとりつぶやいていましたとさ。


めでたしめでたし。


「…めでたくないわ!!」




<end>




あとがき