「てーんかっ、ちょっと見てこれ!」
「…お、! どーかしたさ?」
ぱたぱたと廊下に響く校則違反を主張するかのような足音。コーチに見つかったらまた怒られるな、って思いつつも速度は落とさず、前方に見つけた幼馴染の元へと駆け寄った。
「期末の範囲と冬休みの課題! うちのクラスもう配られてさ!!」
「…うげ、マジかい! ちょ、見して!」
階段を降りかけていた天化は抱えていたゴミ袋を降ろし、私が差し出したプリントを手に取った。覗き込むように二人で顔を突き合わせると、私は持ってきてしまった箒の柄で問題の部分をつついて見せる。
「ホラ見てよ、化学! 雲ちゃんってば課題出しすぎじゃない!?」
「うわホントさ! ……太乙さんの物理も地っ味ーに多くねーさ…? やっべ……」
「もー、冬休みってそんなに時間無いのにー……」
「それ以前に期末どーするんさ……この土日はまた勉強漬けになりそーさね…?」
天化が向けてきたげんなりした表情の中には、少しの期待が見て取れる。
あ、まさかまた範囲の最初っから教え直さなきゃなのかな。まぁ私も日本史教えて貰わなきゃだから結局おあいこなんだけど。
「うぅ…そー言われると余計バスケしたくなってくる……」
「ま、どうせ部活もテスト休み入るし、諦めるしか無ぇさ…。ちぇ、フリースロー対決、決着着いてねぇのになー」
「テスト明けに持ち越しかぁ………あれ?」
「ん?」
ふぅ、と大きく息を吐いた後、顔を上げて気付いた妙な違和感。小首を傾げる私の正面には、ほぼ同じ高さにある天化の黒髪。思わず右手を自分の頭の天辺まで上げてみる。
「…あーた、何やってんさ?」
「や、高さが変わんないな、って思って」
「は?」
「え、だってさ、同じ高さって久々っていうか、何ていうか…? あれ?」
「何で疑問系なんさ…。俺っちが一段低い所に居るからじゃねぇ?」
「あ、そっか」
例の違和感は言われてみれば簡単に解消した。背比べをする子供みたいに動かしていた手を止め、まじまじと天化を見つめる。中学の頃は同じくらいだった身長も、気付いてみれば、階段一段分も差がついてしまった。同じ頃始めたバスケだって、ほとんど互角だったのに今じゃフリースローくらいしか対等に競えない。
「…あーあ、これが男女の差ってやつなのね……」
「どーしたんさ、唐突に」
「良いなぁ天化は! 私ももっと身長欲しい!!」
天化と同じ段に降りてみれば、どうしても見上げる形になってしまう。
むぅ、と少しむくれて見上げた私に、天化は少し笑って。
「…はそのまんまで十分さ。これくらい身長差無ぇと格好付かねーだろ?」
「……は?」
「じゃ、また後で!」
ぽかんとする私に悪戯に笑った天化は、ポンポンっ、と軽く二度私の頭を叩いて、置いておいたゴミ袋を拾うと、背を向けてゴミ捨て場に向かってしまった。
天化はどんどん下に降りて行くくせに、普段より妙に大きく見えた…。
開いた距離は一段分。
(なんだかなぁ…変な感じ。)
★あとがき