「…あ、君が噂の雷震子くんね?」


…何度思い返しても、俺らしくない感想だったと思う。


「私は。君の師匠とは修行時代からの腐れ縁で、今は洞府がご近所さん」


それでも、何度考え直しても、他に表現の仕方は無かった、という結論に達する訳で。


「…よろしくね?」


上品に、それでいて友好的に、柔らかな微笑を浮かべるこの人を見て。




――こういう人を天女っていうんだ、と、幼いながらに思ったんだ――。








同期設定シリーズ! 1
 ―もしも、と色物三仙が同期だったら?








「…が来てたのかい?」
「ひぇっ!?」


空のコップを眺めながら机に頬杖をついていた、俺サマ。
背後から気配も無く近付かれ、いきなり声を掛けられ、不覚にも軽く飛び上がってしまった。


「…んだよバカ師匠。驚かせるなよ…」
「別にそういうつもりは無かったんだけどねぇ…」


口ではそう言いつつも、ニヤニヤと嫌な笑顔を浮かべて俺を見下ろす変人師匠。
…この笑顔、絶対確信犯だろ……。

俺が何も答えられないのを見て、アホ師匠は一層笑みを濃くした。


「もう帰ったのかい?」
「…あぁ。ホレ、届け物だとよ」


さんから預かった包みを軽く投げる。

手元も見ずにキャッチしたこのスプーキーは、相変わらずニヤニヤニヤニヤ…。
言いたい事は山ほどあるが、あえてそれを小出しにして、俺サマを弄り倒そうとしている顔だ。


「…おや?」


突然間の抜けた声を発したバカ師匠の視線の先には、既に中身の無い2つ並んだコップ。
いかにも今気付きましたというフリをしているが、断言できる。絶対最初から気付いてた。


ニヤリ、と口の端を上げたのが始まりの合図。
…畜生、負けてたまっか! 何を言われても無視無視無視!!


「…へぇぇ。雷震子、まさか君が来客にお茶を出すとは……」
「……」
「随分成長したものだねぇ…」
「………」

「……それとも、来客によるのかな…?」




「………っだーーーもう!! うっせーーー!!」




…分かっていても毎回我慢できずに叫び出してしまうのは、性分だから仕方ない。
最早こうなってしまえば開き直るしか無いってもんだ。


「…どーせお見通しの癖にネチネチネチネチうっせーんだよこのアホ師匠! 自分が居ないときに来たのがそんなに不満かよ! にしても俺に当たんじゃねぇよ! あぁはいそーだよ、客がさんなら茶ぐれぇ出すに決まってんだろ!!」


ばちばちと電気が走る音がするが、こいつは今更そんなことで焦るような奴じゃない。
バカ師匠はもう一度満足げにニタッと笑うと、どこからか自分の分の茶を出してきて、一人余裕の表情で寛ぎだした。

…ここで、てめぇ何様だ、と呆れて言えば、きっと「君のお師匠様、だねぇ」と返されるから、敢えてもう何も突っ込まねぇよ…。


「…あーあーもう、どうせ道士になるんなら、俺、さんの弟子になりたかったぜ……」


俺サマ一人疲れて、机に突っ伏しつつぼそっと愚痴る。
そんな小さな呟きも、この変人師匠は聞き逃さなかったようで。


「…あの子を見た目で判断してると、痛い目みるよ?」
「してねぇよ……」


…第一印象は、確かに天女だった。
でも、あのヒトは俺達と何ら変わりない、れっきとした人間…じゃなくて、仙人だ。

正式な場では上品に振舞っているが、普段は表情豊かで怒りもするし笑いもする。
ああ見えて悪戯好きだし、宝貝いじってて失敗、爆発なんて事もあるし。
完璧そうに見えて、意外と抜けてる所もあるし。

…だからこそ、このアホ師匠を含めて、皆に慕われてるんだろうけどな……。


そう結論付けた頃、バカ師匠が止めを刺しに掛かってきた。


「…雷震子、知らないのかい? 実はあの子、ああみえて弟子には厳しいので有名で、修行は私どころか、道徳よりも辛いって噂なんだよ…?」
「………」


ニヤッと笑う師匠の後ろには、確かに何かが見えた……。




…変人師匠の脅しなんて、日常茶飯事。
そが単なる脅しだということを、確かめる術が無いわけではない。

でも今回はわざわざ確かめない方が自分の為になる気がして、俺サマはもう、この話題は避けることにした……。




<end>




あとがき